本から始まる物語

『はじめからその話をすればよかった』
宮下奈都さんのエッセイを読み終えるのがもったいないので少しずつ読んでいる。終わってほしくない物語やお話がある。最初の方に書かれているのは日常生活のなかの思い出や出来事、途中から映画や本の末尾に書かれていたものや文芸雑誌「波」やいろいろな雑誌などに載った本に対するエッセイ、その間に自分の掌編小説を織り込んでいる。
本についてのエッセイを読んで書かれていた本を買ってしまった。雑誌「波」も買いたくなった。書かれている文章はどれも短い。こんなに短く書いているのに人の心を揺り動かせてくれる力に惚れ惚れする。
ジェンダーフリーという言葉が好きになって、男と女の違いは無限に続くグラデーションの中にあると思い始めている。でも宮下さんの文章を読んでいると、子どもを産むことのできる体をもった女性の感性というものを感じて、自分にはないものを感じる。女性の作家が書いたものをいくつも読んでみたいという気持ちになっている。
『鋼と羊の森』という本をどうして買ったのかを思い出そうとしても思い出せない。どれほどの間、事務所の本の中に並んでいたのか、それもよく分からない。この本を読んでみようと思ったのもどうしてかよく分からない。読みはじめて文章の透明感に心が引き寄せられて、宮下さんの本をいくつか買って読んでいる。
本との出会いが何かを変える。部屋の中に温かい光が差し込んで本棚の本に光の帯が当たる。ほら、この本を読んだら何かいいことが起こるよ。
そこから物語が始まるのは楽しい。



