日本国憲法と歴史の流れ 2006年5月14日(日)

雑感

歴史には、発展の流れがある。人類の歴史は、勝手な方向にランダムに進んできたのではない。
「原始、女性は太陽であった」
こう語ったのは、平塚らいてうだった。
余剰生産物のほとんどない生産力の低い段階では、階級の分化もなく貧富の差もなかった。人類の歴史の中でこういう状態が最も長く続いた。
奴隷制から封建制へ、そして資本主義へ。これが歴史の流れだった。自由と民主主義の流れにも法則的な流れがある。人類の歴史は、自由と民主主義の拡大の歴史だった。
江戸時代、日本は鎖国のもとに置かれ、国内における民衆の多くは移住の自由も職業選択の自由も認められていなかった。農民は土地にしばられ、生産物についても封建領主のコントロールのもとに置かれていた。
年貢の取り立てが厳しいと訴え出る直訴は、その願いが叶えられたとしても、郡上一揆のように打ち首の刑に処せられた。
しかし、この制度は、発展する生産力とそれを基礎とした交換関係との矛盾を強め、やがてそれは、江戸幕府の倒壊へと進んでいった。開国と王政復古、版籍奉還、廃藩置県などの流れをたどって四民平等、移住の自由、職業選択の自由を認め、資本主義の発展を爆発的に生み出した。
明治政府は、国会開設と憲法制定の要求を逆手にとって欽定憲法を制定し、絶対主義的天皇制を確立していったが、このような社会体制は、資本主義の発展初期にヨーロッパでも見られた形態の一つだった。
この絶対主義的天皇制は、主権が天皇にあり、国民の権利は法律の範囲においてしか認められなかった。基本的人権も女性の参政権も認められず、国民には、政治体制を批判する権利がなかった。
絶対主義的な社会体制から国民主権と基本的人権を保障した憲法に180度転換し、戦後の憲法体制ができたのは、世界史的な流れの中での変化だった。日本国憲法は、第2次世界大戦というおびただしい人間の命の犠牲の上にたって導き出された教訓が結実したものだった。この憲法を求めたのは、まさに人類の英知だった。この憲法を制定したアメリカでさえ、制定当時、この憲法に込められた進歩的な流れをくいとめることはできなかった。
憲法制定以後、アメリカと日本政府が、この憲法を変えることを求めたのは、進歩に対する反動的な動機からだった。
国連憲章は、一国の利益を理由に侵略戦争をおこなうことを国際法違反とした。この国連憲章に流れている思想と日本国憲法に流れている思想には共通するところが多い。
国連憲章の制定にも人類史の歴史の流れの力を感じる。
以下は国連憲章の前文の抜粋である。

われら連合国の人民は、
 われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、
 基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、
 正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、
 一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること
 並びに、このために、
 寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互いに平和に生活し、
 国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、
 共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によつて確保し、
 すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、
 これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。


人間の歴史は、勝者の歴史ではない。ことはそんな単純な話ではない。戦後多くの植民地が独立し、また一国内でも多大な犠牲を払いながら多くの軍事独裁政権が崩壊した。王政をとっている国は、少なくなり10数か国となった。女性の参政権の拡大や社会進出も歴史の流れの中にあるものだ。人類の歴史は、紆余曲折や歴史の後退もありうるが、確実に自由と民主主義を拡大する方向に動いている。
現在、日本国憲法をめぐる改正の動きは、歴史を後戻りさせる動きに他ならない。基本的人権の制限という考え方を盛り込もうとし、9条を変え恒久平和をなし崩し的に骨抜きにする動きは、日本国憲法そのものの深い検討から出てきたものではなく、アメリカの軍事戦略の中から出てきたものだ。アメリカは世界の警察官のような振る舞いをし、単独による先制攻撃(これは国連憲章違反だ)をおこなうことを宣言し、日本に財政的な負担と人的な負担を求めている。
世界の中で孤立を深めているアメリカのいいなりになって、憲法改正まで押しつけられようとしている日本。アメリカの言いなりになって国の根本原則を変えるのは、自主性を放棄することに他ならない。現憲法を押しつけ憲法だと批判している人々は、憲法改正圧力をアメリカから受けて、嬉々として改正に熱中している。
「アメリカの旗の下に憲法を変えよう」
──これが憲法改正のスローガンだろう。

雑感

Posted by 東芝 弘明